健康診断を受けましょう。

病気を治療する目的とは、大きく分けて二つあります。
一つは、現に困っている症状をよくするためのもの。風邪に対する治療や、花粉症、また、喘息や下痢、便秘に対する治療などがあります。これは、実際に困っているので受診することが多いでしょうし、発見もしやすいものです。
もう1つとしては、ほっておくと健康を損ねる状態を防ぐこと、です。高血圧や糖尿病、慢性肝炎、メタボリックシンドロームに対する生活習慣の改善や治療、また、早期の癌の発見と治療もその中に入ります。こちらの方は、症状がでない段階が長く、しかし症状が出たときには大変なことになってしまうことがしばしばあります。例えば高血圧の末に脳出血や脳梗塞を起こしてしまう、糖尿病の合併症で心筋梗塞や透析、失明に至る。また、癌が大きくなってから見つかり、完治を目指した治療ができなくなる、などです。それゆえに、症状が出ない段階でこれらを見つけていかなければなりません。併せて、病気になりやすい生活習慣も改めていく必要があります。これこそが健康診断の目的となります。

健診と検診

広義の健康診断には狭義の健康診断(健康診査)と検診が含まれます。
端的に言えば、健康診断は現在「健康な状態にあることを確かめること」 検診は「特定の病気がないかを確かめること」が目的です。検診は、多くは癌の早期発見を目的としており、その場合には「がん検診(肺がん検診、胃がん健診、大腸がん検診 etc)」となります。

健康診断の意味

健康診断は、身体診察とともに、身長、体重、腹囲、血圧、尿に糖やたんぱくが出ていないか、採血で肝臓や腎臓の異常がないか、貧血がないか、また心電図で心臓に不整脈などの異常がないかなどを調べます。なにか異常があれば、さらに精密検査を行って病気を発見する、そのきっかけを作ることが目的です。
特に高血圧や高脂血症、高コレステロール血症、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病は、決して少なくはない方がお持ちである一方、自覚症状がないことがほとんどで、調べなければわかりません。一方で、これらの生活習慣病は、早期に生活指導や、また必要に応じてお薬による治療を行うことで、大きな合併症が出る前に病気を抑え込み、元気な状態での寿命(健康寿命)を伸ばせることが多くの点ではっきりと証明されています。
症状がないからといって放っておかず、ぜひ早死にや寝たきりを回避し、健康で長生きすることを目指しましょう。

がん検診

がん検診には対策型がん検診(住民検診)と任意型がん検診(人間ドック型)が含まれます。

対策型検診とは、その検診を行うことで「対象となった集団全体の(その病気による)死亡率を下げることが明らかな方法」を、「公共政策として」行うものです。現時点までに行われてきた研究で明らかに利益が不利益を上回るとされている方法を用いており、地方自治体の補助により、低額もしくは無料で受けることができます。現在推奨されているのは、胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの五つとなり、それぞれ以下のように推奨される対象者、方法が決まっています。

対象臓器 効果のある検診方法 対象者 受診間隔
問診に加え、胃部エックス線または胃内視鏡検査のいずれか 50歳以上※1
※1:当分の間、胃部エックス線検査に関しては40歳以上に実施も可
2年に1回※2
※2:当分の間、胃部エックス線検査に関しては年1回の実施も可
子宮頸部 問診、視診、子宮頸部の細胞診、および内診 20歳以上 2年に1回
乳房 問診および乳房エックス線検査(マンモグラフィ) 40歳以上 2年に1回
質問(医師が自ら対面により行う場合は問診)、胸部エックス線検査および喀痰細胞診(ただし喀痰細胞診は、原則50歳以上で喫煙指数が600以上の方のみ。過去の喫煙者も含む) 40歳以上 年1回
大腸 問診および便潜血検査 40歳以上 年1回

「国立がん研究センターがん情報サービス」より引用

ただし、地方自治体の方針により、独自に検診対象年齢や頻度、検診対象の癌を増やすことができます。(厳密にいえば、それは後述の任意型がん検診となります)当院がある犬山市では、例えば30歳から胃がんの検診が受けられ、また毎年受けられるようになっています。(リンク:令和元年度 犬山市の健康診査等予防事業)
対策型検診は、現時点ではもっとも信頼性のある(癌の発見率が高いという意味ではなく、皆が受けることが癌の死亡率を下げることができるという意味で)方法であり、ぜひ受けていただきたい検診であります。

任意型がん検診(人間ドック型)とは、対策型がん検診以外の全てのがん検診を言い、代表的なものには腹部エコー検査やCT検査、PET-CT検査、腫瘍マーカーの検査、また、癌のリスクを図る検査として、今後胃がんになるリスクとしてのピロリ菌があるかを調べるABC検診や、新しい方法としては現時点で様々ながんに罹患している可能性を調べるAICS(アミノインデックス®がんリスクスクリーニング)などがあります。 対策型がん検診に比べて新しい高度な方法を使っていることが多く、例えばCT検査やPET-CT検査は、「癌がある場合の発見率」に関しては、住民型検診(とくに肺癌)に比べても高いと考えられます。(ただし、PET-CTも万能ではなく、例えば早期の胃がんや大腸癌、子宮頸がんなどはPET-CTでの早期発見は困難で、住民検診の検査がより重要です。)また、CT、エコー、採血検査などで、住民検診に含まれないがん、たとえば膵癌、肝臓癌、胆道癌、また前立腺がん、腎臓がん、甲状腺がんなどなどに対しても調べることができることは大きなメリットといえます。ほか、採血で行うピロリ菌の検査(ABC検診)により、胃がんになるリスクが高いかどうかを予測できること、また上述のAICSは採血の検査がんを有しているリスクが高いか低いかをある程度見極めることができるとされています。 一方で、その検診を行うことで実際の癌の死亡率が減るのか、また癌がない場合に健康な人に与える健康被害の総量が利益を上回っているのかなどの検証が現時点では不十分であり、万人に進めるべき根拠が今のところ乏しいため、「希望する人に行う」検診となっています。そのため、基本的には自費診療となり、比較的高額な場合が多いというデメリットもあります。ただ、検診の有効性を評価するのには長時間の莫大な労力がかかるため、新しい方法の有効性の証拠はすぐには出てきません。それらの方法は現時点で根拠に乏しいだけであり、現在行われている任意型がん検診が、今後はっきりと死亡率を下げるメリットが上回ることが証明されれば、対策型がん検診になっていく可能性もあります。(胃カメラによる胃がん検診も、数十年来、任意型がん検診であったものが、癌の死亡率を下げる確かな証拠が揃ってきたため、近年対策型がん検診として認められるようになりました。)一方で、実際のところはその検診を受けたとしても、集団として癌の死亡率を下げることはない、もしくはむしろ健康被害を与える影響がより高かったことが今後証明される可能性も否定はできません。

もう一つの問題としては、異常がひっかかった場合にどうするかということがはっきり決まっていないという点があります。例えば、腫瘍マーカーが高い場合にも、それが必ずしも癌があることを示すものではありません。結果として、様々な検査をしても癌が見つからず、不要な検査を行うだけの結果になることもあります(ただ、それにより癌がないことを確認できたという点で、個人個人としては、それを良いことと考えることはできますが)また、AICSやピロリ菌検査でがんのリスクが低いとされた場合に、リスクが低ければ癌がないことが証明されたわけでもありません。リスクが低いとして、対策型検診を受けずに、結局癌が見逃される可能性もあります。

筆者個人的な意見としては、任意型がん検診で癌が発見された方は多数見ているため、決して否定するわけではありませんが、様々な方法がある中、各方法のメリットデメリットをよく考慮したうえで受けるべきであること、また、リスク評価でリスクが低かったからといって、癌を持っていない証明がなされているわけではないことには留意いただきたいと思います。

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